最近、夜は映画を観ています。
昨日、観たのは『彼は秘密の女ともだち』というフランス映画でした。
子供を授かったばかりなのに、若い妻に先立たれた男性が、喪失の悲しみや子育てに苦悩する日々のなか、ふとしたキッカケで、昔から興味があった女装に目覚めます。
その女装姿を妻の親友に見られてしまい……。
……と、話の筋はこれくらいにして、この映画、女装に目覚めた男性のウキウキ感がすごく印象的。
妻の親友にバレて、気持ち悪がられてしまったけれど、彼は彼女に協力を頼みます。
今までこっそり家の中だけでしてきた女装をほどこして、「女二人」でショッピングに出かけるシーンは、彼のドキドキとワクワクが伝わってきて、観ているこちらもワクワク。
冒険を楽しんだ次の週末、ふたりは小旅行に出かけます。
「変身」に必要なものを詰め込んだトランクとメイクバックを引っさげて、オープンカーでフランス郊外の美しい邸宅へ。
森の散歩に合わせて着替え、ディナーのまえに服を変え、そのあと、夜遊びに出るため、また念入りにドレスアップ。
彼にとっては、あれやこれやと洋服を選び、メイクをほどこし、ヒールを履いて……そのひとつひとつの行為が、たまらなく楽しい「変身」のための時間なのです。
でも、生まれながらに女の私にとっては、メイクも着替えも、毎朝の単なる義務。
特別、楽しいわけでもないし、むしろ面倒に感じがちなこと。
けれども、肩までの長さの上品なウィッグをかぶり、鏡に向かって丁寧に髪をとかす彼のうっとりした表情を観ているときに、ふっと思いました。
なんだか私、女に生まれてよかったかも、と。
今までは「義務」であり「ありきたりすぎる日常」でしかなかったメイクや身支度なのに、すべての過程を心から楽しんでいる彼を見ていると、「こういうことの全ては、女だけが楽しめる特権なんだよ」と言われているみたいに感じられてきたのです。
映画を観おえて、ベッドに入り、思いました。
明日の朝は、私もちょっと早起きして、うきうきしながら身支度してみよう!って。
だけど、惰性って怖い……。
丁寧にウキウキ楽しむつもりで鏡に向かったのに、そんな気持ちでいられたのは最初だけ。
なにしろ、すべては手慣れた「作業」です。
スキンケアをして、ファンデーションを塗ったくらいから、なにやら違うことを考え始めてしまう私。
ふと気づくと、いつも通りの「工程」を無意識に進めていて、いつの間にかメイクが終わっているではありませんか!
あれ? 私のウキウキ感はどこへ?
いやいや。着替えがまだ残っている。
これをじっくり楽しもう!
そう思っても、彼のようにクローゼットのまえに立つだけでワクワクするなんて無理。
ああ、このカットソーだと今日はちょっと肌寒いよね。
このパンツは最近、ウェストきついのよね。
うーん、結局、この組み合わせにする?
でも、二日前も同じコーディネイトだったな……。
……って、なんだか全然ワクワクしない。
それでも鏡のまえに立ち、せめて丁寧に髪をとかします。
アクセサリーを選んで、ツリーみたいに自分をちょっと飾りつけ。
男が女に変わるほどのエキサイティングな変身ではないけれど、朝起きたときのヨレヨレの自分から変身しているのは確か。
だから小さく満足して、さらなる野望を持とうと決めました。
もっと毎日の身支度を楽しもうと。
普通、こういう意識は、日常を大切に生きている「女のお手本」みたいな人から学ぶことかもしれません。
でも、私の心を刺したのは「女に憧れ、自分を女に変える身支度にも憧れて止まない男」を描いた映画だったわけで。
人間って、妙なものから不思議なことを学ぶものですね。
もう一つ、彼から学んだのは「特権」というものの意味。
持っている人間にとっては、ありがたいともなんとも思わないのが「特権」というものの正体なのかもしれません。
たとえば、「メイクをしていい」というのは女の特権。
でも、それを「女はメイクしないといけないもの」というふうに「義務」にしか捉えずにいた私は、なんだか不幸だったかも。
メイクに限らず「自分では気づいていない特権」を、人はそれぞれ、いろいろと持っているのだと思います。
外で働くこと。
子育て。
親孝行。
――こうしたことだって「誰もが当たり前にやっていく義務」だと思いがちですよね。
でも、それぞれの事情で、これらのどれかを「やりたくても出来ない人」って、いっぱいいます。
ああ、思いきり外で働けたら、どんなにいいだろう。
子供を持てたら、親がいてくれたら、どんなにうれしかっただろう。
……そう思う人からみたら、どれかひとつでも出来ているあなたは「特権」を持っている人。
自分の特権に気づき、ありがたいと思うのは意外と難しいけれど、でも、そこを意識してみれば……今までより少しだけ多く、「私は幸せ」と感じられる気がします。
それに、どうぜやるなら楽しまないとね。
今日からメイクも身支度も仕事もみんな、義務ではなくて私の特権!
そう考えて、楽しむ方法を考えようと思います。
あなたも「あなたの特権」を楽しめますように。
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